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航空歴史館 技術ノート 掲載16/12/12
追加16/12/21

背面飛行について

 グライダーの場合

 背面飛行中の揚力について

問題の発端

 ビーチクラフトT34A研究に寄せられた写真の中に、このように「背面飛行禁止」のステンシルを打った機体がありました。空自、海事、陸自の他の写真には見当たりませんで、16/12/12現在、この41-0310機のもです。

航空自衛隊第11飛行教育団 撮影1971 三沢基地 A-330


 

 

2016/12/12 山内秀樹さんから

背面飛行について

 レシプロ機・ジェット機を問わず背面飛行の可能な航空機のほとんどが一定時間(秒数)以上の背面飛行を禁止しています。たとえ戦闘機でも通常プラスG状態で飛行するので、オイルの配管も、燃料系統の配管もそのように作られています。

 「マイナスGは一瞬の特殊な飛行状態」という考えで設計するのが普通です。そのため長時間(秒数単位)の背面飛行をすると
● オイルの循環が途切れてエンジンが焼き付く。
● 燃料供給が途絶えてエンジンが止まる。(ジェットエンジンの場合はフレームアウト)
が発生することになります。

 T-34のフライトマニュアルにも、運用制限の項目で”Inverted flight shall not exceed 15 seconds.”と明記されています。


 そもそも背面飛行時にはパイロット・乗員は逆吊り状態ですから、頭に血が上って健康上無害ではありません。

 床や床の下の空間に平素から落ち込んでいたゴミや埃やネジや筆記用具等が舞い上がって頭上のキャノピーに溜まるので、酸素マスクをきっちりとはめて鼻と口を保護し、バイザーを下げて目を守るようにするなど、それなりの覚悟が必要なようです。シートベルトもストラップもしっかりと締め付けておかないと、体重を両肩のストラップに支えることになり、かなりキツイとか。

 パイロットは両足がフットバーから浮き上がるので、腰を操縦席の背部に押し付けるように両足を突っ張ってフットバーを踏み外さないように頑張るそうです。

 横転をくりかえすような運動で空中戦を行う戦闘機も、水平飛行の連続ロールは避け、必ずバーレルロールでプラスGを保持したまま戦闘します。

 どうしても背面飛行や8ポイントロールをやって見せたいデモフライトチームの所属機は、燃料やオイルの配管を細工して長時間(それも何分というものではない)マイナスGで飛行できるよう、特別に改造してあります。


 背面飛行とは一般に「地球表面に背中を向けて水平飛行すること」でしょうが、要するにマイナス1Gで飛行することと言い換えられます。「マイナス1Gの飛行」は、普通に水平飛行中に操縦桿を押せば実現します。

 敵戦闘機に背後に付かれた場合、不意に操縦桿を押して、機首を急激に下げ、追尾する戦闘機の計器板の下に隠れる戦法があります。敵戦闘機の視界から消えた直後に左右どちらかにロールを打って操縦桿を引き、プラスGで急旋回して逃げるのです。

 敵戦闘機のパイロットは消えた目標を再捕捉するために左右どちらかにロールを打ちながらキョロキョロ探すハメになります。レーダで追尾中も、索敵モードから目標にロックオンし、照準モードに切り替え、アンテナスキャンを絞った段階で下に逃げられるとロックオンが外れる可能性が高くなります。

 その戦法は湾岸戦争当時、米空軍のF-117Aステルス戦闘機や、米海軍のEA-6Bプラウラーが実施していたと伝えられます。
 F-117A
の場合は主翼上面に開いたディフューザの赤外線源を主翼後縁で隠すためにも操縦桿を押してマイナスGで逃げるのは定石。そのためにマイナスG状態でもエンジンへの燃料供給が途絶えないように配管を変更しました。このことについては「世界の傑作機」F-117Aに書いておきましたので、ご参照ください。
 EA-6B
は4名の乗員を乗せたまま、いきなり操縦桿を押すので3名のEWOは全員バンザイ状態になり、4名全員揃ってレッドアウト(血が頭に上った結果として眼球の白目部分に出血して赤い目になる)するのだ、と乗員に直接聞いたことがあります。

 そこまでいかなくても戦闘機は敵機を発見したり、敵機に背後に付かれた場合は、最大限に増速するため「アンローディング」という手法を用います。フルスロットルとし、操縦桿を押してゼロG(つまり弾道飛行で放物線を描いて落ちる飛行経路をとる)に近くし、主翼の発生する揚力をゼロに近づけ、空力抵抗を減少させて加速するのです。この場合でもわずかながらでもプラスGの範囲で実施するのが現実的です。


佐伯から : 詳しい解説をありがとうございました。
 そうすると、
41-0310機にわざわざ「背面飛行禁止」と表示されたのはどういう訳でしょうか。この機体に限って、数秒間といえども背面飛行を禁止することを知らせるためとしても、主翼付け根の後ろから搭乗するパイロットが気付かないような位置であり、あまり意味がないように思いますが。


 2016/12/13  tamaさんから

 T-34Aの背面飛行禁止の件ですが、オーバーGか何かで、飛行制限が加えられたのではと推測します。F-86Fの長期保管機が5G迄の制限を受け飛行再開した事例があり、機種部分に細い赤のラインを引いて識別していました。

 レシプロ機の知識はあまり無いですが、私が整備していたジェット機は、背面飛行時間制限が10秒程度でした。
 制限の理由は燃料供給上の問題で、背面燃料タンク(セルと呼んでいました)の容量のためです。飛行機の燃料タンクは分割設置されてますが、エンジンへの燃料供給はその中の一部の燃料セルで、エンジンへの燃料供給セル内に背面飛行を可能にする背面セルが設置されてます。
 普通の燃料セルと背面用セルとの違いは、燃料移送用の機構が違い通常のセルは底部より移送をしますが、背面用セルは上下どちらからでも移送が出来ます。
 燃料移送方法は色々な方法がありました。
  @ 油圧駆動もしくは電動のブースターポンプ
  A 空気圧等による移送
  B エンジン等の吸い上げによるサイホリング
  C 重力による燃料移送(液体が低い場所に流れるのを利用、背面飛行では使用できません)


 2016/12/13 大石治生さんから

 T-34Aの背面飛行禁止のステンシルについてですが、写真を見るとエンジンカバーの留め金でプロペラ側のものが外れた状態なのと何か関連があるのかと想像しました。
 パイロットは飛行前に機体外観のチェックを行うのですが、訓練生に対して留め金などが正規に固定されているか確認させるために、この様なマーキングを行って注意を促し、確認する癖を身に着けさせるためのものなのでしょうか。
※ 留め金を確認せずにエンジン始動しようとすると教官から背面飛行禁止とか言われて慌ててエンジンカバーを見に行くとか。
 カバーの留め金が外れているので背面飛行するとカバーが開く意味で背面飛行禁止の警告?
   

     背面飛行中の揚力について

2016/12/14  背面飛行中の揚力について

・ 素人の疑問ですが、たとえ上昇気流に乗っているときでも、背面飛行に揚力が発生しているのでしょうか。
 エンジン機では、ピッツS2の曲技名人新妻東一さんやロック岩崎さんは低空で背面飛行を継続していました。その間の機体は揚力で浮かんでいたのでしょうか。
 ブルーインパルスのInverted & Continuous Roll(背面飛行と連続回転)演技では、ロールとロールの間の背面飛行時間は12秒くらいで、これなら揚力は関係なく推進力の慣性だろうと思いますが、ずっと気になっています。どなたか素人にお答えください。 (佐伯邦昭)


 2016/12/21 回答 れある

 非対称翼型の主翼を持つ飛行機の水平直線飛行と背面水平直線飛行を絵にしてみました。
いずれの場合も主翼で空気の流れを下向きに曲げることで揚力を得ます。
 背面では主翼取付角の効果打ち消しと非対称翼型の能力低下を補うために機首を高く上げます。