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航空歴史館 技術ノート 原文作成 03/05/18
修正再掲 04/07/25
追   加 14/10/24
追   加 18/11/22

 

 大出力プロペラ機の反トルク対策について

1 単発機の場合

2 多発機の場合

  訂正が必要ではありませんか
  用語は正しく使いましょう
  現場ではプロペラトルクを打ち消すためと言っています

 

(1) 単発機の場合


§31-1
 大出力単発機のプロペラトルク対策の質問  (03/05/18  シシオ)

 UH-1のシンクロナイズドエレベータの記事を興味深く拝見致しました。
 そこで、私がかねてから疑問に思っている事を書きます。

 それは、T-3型初等練習機の垂直尾翼が右に約1°オフセットされて取り付けられているということですが、エンジンが出力状態の時にプロペラトルクの反作用で機体がヨーを軸に左に偏向しまう現象の対策です。

 着陸の時は、エンジンが殆どアイドリング状態でプロペラトルクの反作用が無いので、そのままでは機体が反対に右に偏向してしまうのでトリムを操縦士が操作して右偏向に対応しているそうです。

 このたび導入された、新初等練習機のT-7は垂直尾翼にオフセットは無く、その代わりにエンジン(プロペラ取り付け軸)が右に約3°オフセットされて取り付けられていて、プロペラトルクによる左偏向に対応しているそうです。同じT-3、T-7シリーズ系統のT-5の垂直尾翼及びエンジンの取り付け角の ことは知りません。

 T-5のプロペラトルク対策も気になりますが、疑問の本題は零戦やムスタング等の超大出力単発機のプロペラトルク対策はどのようになっているのだろうかということです。

 零戦やムスタングのパイロットはT-3等の様に初等パイロットではない熟練パイロットなので、初等練習機にあるようなプロペラトルク対策は必要無いのでしょうか。

 ちなみに、セスナ172及びビーチボナンザ(通常尾翼型)の垂直尾翼を良く見てみると、ラダーに小さなタブが左にそらせて固定して取り付けられていて、そのタブの作用でラダーが右に向くのを助けているのが分かります。

 UH-1のエレベータの記事で垂直尾翼に関連付けて恐縮です。何かお分かりでしたらご教示頂けたら幸いです。


 §31-16 2018/11/20 訂正が必要ではありませんか 上田邦彦   訂正

 原文
 「T-3型初等練習機の垂直尾翼が(A)右に約オフセットされて取り付けられているということですが、エンジンが出力状態の時に(B)プロペラトルクの反作用で機体がヨーを軸に左に偏向しまう現象の対策です。」

  先ずは、2箇所、補足・訂正が必要です。

 (A)の訂正案 : T-3型初等練習機の垂直尾翼が左に約オフセット

  根拠:原文の意図は、方向舵を「右」にあてて左ヨー効果を出す側(上面から観て反時計回り)に約オフセットです。T-3以外の機体の記述定義に従うと「左」オフセットとなります。

 

(B)の訂正案 : 主翼上面に沿って吹き降ろす流れよりも上方の領域を、右舷側に偏向しながら流れるプロペラ後流によって、垂直尾翼に右向きの力、すなわち左ヨーのモーメントが発生してしまう現象

  根拠:プロペラトルクの反作用による機体の挙動は、ヨーではなくロールです。進行方向に向かって時計回りのプロペラでは、ロール軸回りに左(反時計回り)にバンクさせようとするモーメントとなります。

 

 従って、その後の記述についても

誤記 : プロペラトルク対策として(の記述)

訂正 : プロペラ後流対策として(の記述)

が必要です。

 

 因みに、プロペラ軸を傾ける事(サイドスラスト)によっては、プロペラトルクを打ち消す事は出来ません。

竹ヒゴに和紙を貼ったゴム動力機の垂直尾翼が何故、下側についていたかを考察すれば、ご理解いただけるものと思います。もっとも最近のゴム動力機における左ヨー傾向は、サイドスラストによって緩和させる方法が主流となり、垂直尾翼は実機と同じように上側につけるようになったようです。

 

 補足:進行方向に向かって時計回りのプロペラの場合「垂直尾翼に左向きに作用する力」は、プロペラ軸回りのモーメントという観点では、プロペラトルクの反作用を助長する方向となります。しかしながら、胴体の上側にしかない垂直尾翼では、水平尾翼のようにプロペラ軸回りの偶力とはなりえず、実際にはプロペラ軸回りのモーメントではなく、ヨー軸回りのモーメントとして作用します。 以上、誤記訂正案まで


 

佐伯から : シシオさんの質問は、「大出力単発機」としているように、低出力機のプロペラ後流による左右への振れ対策ではなく、戦闘機など出力の大きいエンジンによるカウンタートルク対策についての問いかけではないでしょうか。

 低出力機の場合は、カウンタートルクによる振れは微弱ななものですが、大出力機の場合は、かなり効果が大きいものとされています。(1971年刊酣燈社「軽飛行機の操縦入門編」)

 なお、本稿の各意見全体を通じて、カウンタートルク対策論か後流対策論かの判別は困難であると思っています。

 

 §31-17 2018/11/22 用語は正しく使いましょう れある  用語

 プロペラのトルク効果についてです。用語のついて正式な定義はありませんが、一般にプロペラのトルク効果(propeller torque effect)と言えば、推力を得るために発動機でプロペラを廻したときに生じる副作用全般を指します。その副作用の中で飛行機の安定と操縦に大きな影響を与えるのは以下の4つです。
  ・  プロペラのジャイロ効果(gyro effect)
  ・  プロペラの不均衡荷重(P-factor)、
  ・  プロペラの後流作用(slipstream effect)
  ・  トルクの反作用(counter torque)

 このページの「大出力プロペラ機の反トルク対策について」では、そのあたりの知識や用語の整理が十分ではなく、私も一寸具合が悪いなとは思っていました。

 ネットの情報が全て正しいとは思っておりませんが、知識や用語の整理に役立ちそうなURLを2つ添付します。

www.CFIJapan.com
(Left Turning TendencyからP-factor,torque,slipstream,gyroscopic precessionへのリンクがあります。)
http://www.cfijapan.com/study/html/to199/html-to125/107e_left_turn.htm
「AERODYNAMICS- LEFT-TURNING TENDENCIES (single engine, propeller airplane)」
https://www.youtube.com/watch?v=QGWbjGqmoWo

 なお、用語等の整理段階では「大出力エンジン」には拘らない方が良いと思います。表現が難しいのですが、飛行機がトリムされた状態に対して、出力が過大、適当、過小の3パターンで考えられてはいかがでしょうか。
 

 §31-18 2018/11/22 現場では 古谷眞之助  現場

 2015年7月に、防府北基地のハンガーにお邪魔してきたときレポートを思い出しました。

 中国航空協会CAS通信2015/10/25号から抜粋 
 この日は総務部長殿と整備群司令殿、富士重工整備防府事業所長殿にお会いしたのち、ハンガー内を見学させていただきました。
いつも見慣れているT-7ですが、間近で整備の専門家から色々お聞きすると新たなことが分かります。プロペラ軸が機体の中心線から右(写真では左)にずれているのが分かるでしょうか。垂直尾翼の捻りとともにための策。この措置で最近の学生は随分と楽をしていると笑われていました。

 

佐伯から : 現場では、プロペラトルクを打ち消す対策としているようですね。

 


§
31-2 関連して  HAWK

 シンクロナイズドエレベーターの話題が更なる拡がりを見せて興味深いですね。シシオさんが質問されていた垂直尾翼の件ですがPー51については間違いなくオフセットがついています。

 零戦については確証が無いのですが、やはり同じような処置がなされていたのではないでしょうか。戦闘機としては非力だったとはいえ1000馬力のエンジンを搭載していた訳ですし、設計者の堀越技師は非常に緻密な性格をしておられたそうなのでこういった点にも気を配ったと思われます。

 またどの書物を見ても零戦の操縦性は素直であったと記述されていることからも推察されます。零戦についてはどなたかご存じの方のご教示を戴きたいですね。

 


§31-3 天山と彩雲のオフセットについて にがうり

 シシオさんの言われるプロペラ・トルク影響は間違いなくあります。設計段階であらかじめ大トルク(主に機体の割りに大馬力装備)が計算できる場合は機体構造上で配慮します。例えば有名な昔の艦攻「天山」は垂直尾翼オフセットさせています。オフセットとは構造的に何度か曲げて作り空力的に中立させています。またペラ後流方向を変えるためエンジン装着角度をつけてるものもあります。

 その他機体完成後の試験飛行で例えば設計計算では予測のつかない飛行トラブル解消のためすべての動翼には「修正タブ」というアルミ小片タブがついてます。これは飛行試験を重ね実際に「修正タブ」角度を手で変えながら安定中立飛行するまで行います。そして一番良い角度に固定します。普通「修正タブ」はエルロン、ラダー、エレベーターについています。この固定「修正タブ」とは別に「可動トリム・タブ」もついていて、これは飛行状態に応じて操縦席からコントロールできます。

 以上はプロペラ機の話しでジェット機になるとまた少し話しは変わります。なおヘリコプターの場合は主ローターとテール・ローターでトルクを相殺してます。もしテール・ローターが機能しないと胴体はクルクル回りながら墜落します。

 天山と彩雲の垂直尾翼のオフセットは平面図から確認できます。図の赤線の角度です。天山は9号機から28号機まで左3度、29号機以降は左2度10分、彩雲は左3度ということです。天山と彩雲は中島の設計ですが、三菱の零戦や雷電は図面上では確認できません。


§31-4
 彩雲のフライイングテイルについて かつお

 固定翼機飛行中の機体前後姿勢制御は常識的には水平尾翼の昇降舵で行いますが、現在のジェット機はフライングテイルと称する水平尾翼全体が戦闘機などに見られる枚板構造で動くものと、大型機のように水平尾翼+昇降舵の全体が一体に、または別々に動くものがあります。

 これらは航空機の高速化に伴う必然的構造であり、ヒコーキ雲読者なら常識と思います。その後者の構造をもった飛行機が第二次大戦中の日本海軍有名偵察機「彩雲」に既に採用されていたことをご存知でしょうか。

 基地に向けて「我に追いつく敵機なし」と打電したエピソードは有名ですが、それほどに高速を誇ったとしてもマッハには程遠く、フライングテイルが当時の飛行機に必要とは考えにくいです。それが必要なわけは実は高速とは無関係のところにありました。彩雲は、この異例のフライングテイルの他に主翼前縁スラット(油圧)・2重ファウラーフラップなど他機には見られない高揚力装置を備えていました。

 その高揚力のせいで海軍式三点姿勢(着艦フックを下げて)で着艦(陸)する際、昇降舵だけではその姿勢がとれず、効きをよくするために水平安定板が下方だけに動いて尻を下げるようにしました。フライングテイルは、通常の飛行中は並の昇降舵ですが、降下の際はフラップと連動させパイロットは特別の操作は不要だったということです。(参考文献 丸メカニック15 彩雲)

 


§33-5
 彩雲のフラップ・エルロン・水平尾翼連動 にがうり

 彩雲は高性能が有名ですが、その空中高性能と離着陸時性能は相反する面を持ってまいす。その両面をうまく実現するため実に斬新なシステムを考案しました。

 操縦桿左右中立の時、着艦(陸)時フラップ下げ45度にすると、フラップ油圧作動筒は同時にケーブル、ドラム、リンクなどを通じて左右エルロン下げ15度になり、さらに水平尾翼(スタビライザー、丸メカではフライングテイル)がマイナス4度に連動します。その状態での横(ロール)コントロールも通常の左右操縦桿操作と同じですがその時のエルロン作動角は15度下げを基準としての上下角になります。

 その仕組みはフラップ下げ45度においてフラップと操縦桿との連結リンクによります。フラップ下げ45度位置だけのリンクと思います。彩雲のこれら高揚力装置は驚くべき先見性を持ち、現代大型旅客機や戦闘機に使われてるシステムと同じです。

 現代はハイテク使用で油圧、電子機器等が格段の進歩はありますが、当時の機械的実用化には感嘆します。(参考文献 丸メカニック15 彩雲)

 


§31-6
 彩雲のシンクロナイズ 佐伯邦昭

 中島飛行機郡山製作所のテストパイロットであった佐藤良司さんの回顧より

 彩雲に乗り、高度2,000mで、低速85ノットの測定でフラップを60度出したところ、尾翼の猛烈なフラッターで操縦不能になりあやうく命を落とすところであったと記録しておられます。

 800mまで降下したところで、フラップを入れたら、けろりと水平飛行に戻ったそうです。原因はフラップと水平安定板の調整角度が狂っていたためで、こうなると連動がかえって災いになってしまいます。操縦不能でダイブし始めたら常識的には揚力を増すほうに頭がいくと思うのですが、とっさの判断でフラップを納めて事故を免れた佐藤さんに対しては、中島の小泉製作所長から金一封が贈られたそうです。(参考文献 航空情報 1956年8月号)

 


§33-7
 零戦の反トルク対策は? HAWK

 あれから気になって自分の手持ちの資料や本屋の店頭で零戦の垂直尾翼の事を調べてみましたが、オフセットはついていないんですね。同じ血統の雷電が同様というのも理解できます。そうなるとエンジンの取り付け角で反トルク対策をしていたということですね。

 いったいどのくらいの角度をつけていたんでしょうか?旧日本軍の戦闘機ではトップブランドで資料も非常に多い零戦ですが、ここまで突っ込んだ資料は見たことがありません。どなたかご存じの方はご教示ください。 

 


§
31-8 零戦はオフセットしていない 横川裕一

 零戦はエンジンも垂直尾翼もオフセットはしておりません。

 方向舵の下の方に小さな固定タブがあり、機体の癖に応じてペンチで適当に曲げていたそうです。

(参考文献 図解軍用機シリーズ5 零戦)

32型までの固定タブ 52型以降の固定タブ

 


§
31-9 零戦・雷電の反トルク対策 かつお

 三菱十二試艦戦(零戦)と十四試局戦(雷電)設計チームの動力儀装班で設計に当った産田(おぶた)健一郎さんにお話しを聞きました。
 
 ・ 雷電は、鈴鹿での地上特定目標目掛けて急降下テスト中に、機首が左へ偏るのを修正するためフットバーを強く踏ん張って当て舵の必要があり、それを「足がしびれるほど」と表現するほどだったそうです。この対策としては垂直尾翼オフセットではなくエンジン取り付け角度を右3度調整することになりました。

 動力儀装班だった産田さんは、そのエンジンマウントの設計に当たり、図面は完成したそうです。しかし、それが実機生産で施工されたかどうかは、「構造班」でなければ解らないが、恐らく実施されなかったと思う、とのことです。(生産数400位?)

 ・ 零戦には、反トルク対策はありません。零戦に起こらなかったことが雷電に起こったのは、エンジンのパワー差だと思います。

 ・ なお、雷電の問題が起こったときは主任の堀越二郎氏は病気静養中で構造班長曽根嘉年氏が代理中のことです。

 ・ 零戦の垂直尾翼固定タブは各機体ごとのクセに相違があるので一様ではなく、材料はデュラ板でリベット留めでした。

 


§
31-10 反トルク対策 シシオ

 ヘリコプターの尾翼に関連付けて、固定翼機の垂直尾翼の疑問を送って恐縮でした。しかし、おかげさまで単発機のプロペラトルク対策に付いて皆様からたくさんのご教示を掲載して頂き疑問事項がよく分かってきました。本当にありがとうございます。

 対策は大きく分けて、次の三点のようですね。
・ オフセットのない垂直尾翼でのラダーに付ける左に反らした固定小タブ
・ 垂直尾翼そのもののオフセット
・ エンジンの取り付け角のオフセット

 素人考えですが、垂直尾翼のオフセットは出力状態(巡航時)は、トルクと尾翼がつり合って良いのでしょうが、着陸の時は逆に手間が多く大変になるのではないでしょうか。

 エンジンのオフセットは、出力状態でも着陸時でも垂直尾翼は真っ直ぐなので、こちらの方が、操縦が易しくなるような気がします。T-5はどちらを採用しているのでしょうね。

 


§
31-11 雷電の反トルク対策 元三菱重工業 産田健一郎

 §31-9を拝見しました。その中で説明不足の分 がありましたので補足します。

 零戦の場合は、堀越二郎さんの編み出したの「操縦系統の剛性低下による操縦応答性の改善」の理論応用により、比類なき空戦性能が生 まれました。

 その経験はそのまま雷電にも応用された訳ですが、急降下時にフット バーによる当て舵が異常に重いことが分かりました。これは多分大馬力エンジンのためのプ ロペラの後流によるものと思われますが、その対策としてエンジンを取付け面で3度 右へ振る案が出まして、私はその改修図面を書かされました。

 その直後に私は烈風の開発の方へ移りましたが、雷電のその試験機が出来た話は有りませんでした。

 多分こ の案は中止となり、堀越式剛性低下方式の範囲内で、レバー比の変更とか方向舵面積を加減する事で解決したものと思われます。

 このノウハウは更に大型で大馬力の烈風に も応用され、空戦フラップの併用と相まって零戦以上の良好な操縦性が確認されまし た。

 勿論エンジン、方向舵にオフセットは有りません。以上です。

佐伯から : 「操縦系統の剛性低下による操縦応答性の改善」とは、零戦試作機の高速時における昇降舵の重すぎ・効きすぎの解決策として、操縦ケーブルなどの剛性を下げて伸縮性を持たせたものです。

 剛性が低ければ、高速で舵面に当る風力が強くても、ケーブルの伸びによって昇降舵の操作が楽になり、低速の時は舵面に当る風力が弱いので伸びません。高速で伸び、低速で伸びない程度の剛性です。

 これは、伸縮すると舵の効きが悪くなるという当時の常識を頭から覆した理論でした。

 海軍の試験官をして「零戦の昇降舵については満足すべき状態になった。あらゆる緩急の操縦に悪いところはない」と言わしめた画期的な成功であり、戦後ホーカー航空機会社主任設計士は1958年のイギリス航空学会誌で「当時の水準から見て驚嘆に値する構想・手法だ」と書いております。

(参考文献 堀越二郎著 「零戦」 1970年発行KAPPA BOOKS)

 


§31-12
 単発機のトルク対策ついて 泉水 閑

 単発機のトルク対策についてですが、Bf109では垂直尾翼断面を左右非対称にして対策しています。(まあこれは有名な話なので言わずもがなですが)

 また、WW2ドイツ機では水平尾翼取付角を可変にして縦トリムをとるようにしている例があります。(同じくBf109, FW190) これは、これで操縦するとかフラップと連動させるというものではなく、比較的小型の機体で燃料消費や爆弾搭載などによる重心移動に対処するためのものだと思います。

 イタリアのマッキMC200シリーズ(200〜205)では主翼の長さを左右で変えてトルク対策をしています。これは設計者のカストルディの好み(?)のようで私の知る限りではM52も同様の処理をしています。

 


§31-
13 単発機トルク対策のまとめ 佐伯(03/06/30)

 単発機のプロペラトルク対策をまとめておきます。

1 垂直尾翼のオフセット(取り付け角)の例

中島 天山艦攻 初期は左へ2.10度 量産機は左へ3度
中島 彩雲艦偵 左へ3度
ビーチクラフト T-34A 左へ1度
富士 T-3  右へ1度
その他、図面上で確認できる垂直尾翼のオフセット
左へ 川西94式2号水偵 愛知流星艦攻 富士KM-2など
右へ 川崎キ61飛燕

2 エンジンのオフセット(取り付け角)の例

三菱雷電 右へ3度(設計変更はしたが実施したかどうかは不明)
富士T-5 T-7 右へ3度

3 二重反転プロペラの例

川西 紫電水偵

4 固定タブによる対策

 三菱零戦をはじめ大多数の単発機は、垂直尾翼後縁に固定タブを取り付け、適宜角度を調整してトルク対策に当てています。現在見られる多くの単発民間機もおなじです。

5 垂直尾翼の断面形を左右非対称にした例

メッサーシュミット Bf-109

 

§31-14 2014/10/15   古谷眞之助

 プロペラ機の反トルク対策、興味深く読みました。航空ファン12月号にUS-2に関する記事があり、開発過程で設計陣はエンジンは左右で逆回転のものを取り付けることを希望したが、エンジンを供給する官給側( 防衛省? )から強い反対が出て3度右に振って対応したとあって、エンジンを機軸に対してまっすぐに付けないこともあるのかと吃驚しました。しかし、何もこれはUS-2に限ったことではなかったのですね。

  ところで、技術的知識の全くない私の素朴な疑問ですが、エンジンの向きを変えてトルクに対抗する時、どうして、おしなべて3度なのでしょうか。

 雷電、T-5T-7US-2

 また、垂直尾翼の取り付け角変更にしても、3度という数字がついてきます。この3度には何か深いわけでもあるのでしょうか。

 天山、彩雲

 素人考えでは、エンジン出力や機体の形状、そして飛行速度自体が変化するわけで、その機体固有の適正な角度というものが、ありそうなのですが・・・・。

 それに、特に着陸速度の遅いUS-2なんか、エンジンの取り付け角を変更してしまえば、速度が失速ギリギリの状態となった時には、それでなくても難しいといわれている着水操作をむしろ難しくする結果となりそうな気がしてしまいます。

 プロペラトルクで思い出すことがあります。元F-1戦闘機パイロットがグライダーメンバーになって初めて乗られた時に、グライダーの操縦はジェットにとてもよく似ていると言われました。プロペラトルクを考えなくて良いので操縦しやすい、という意味だと思いました。

 ただ、グライダーは翼が異常に長いので、実は旋回時にはヨーを打ち消すためにラダーをしっかり踏み込んでやる必要があります。聞いたところでは、これは陸単機などとは全く違うとのことです。

 

§31-15 2014/10/24  ノースアメリカンT-6Gのオフセット      T-6G

米空軍発行 Maintenance Instruction T-6G & LT-6G  1953/06/25改訂版  資料提供イガテック

 

 

2 多発機の場合


§332-1
 双発機の反トルク対策 シシオ(03/05/25)
 
 双発機のプロペラトルク対策はないのでしょうか。
 セスナT303のように、左右のプロペラが互いに逆回転してトルクを打ち消すタイプはごく少数だと思います。殆どの双発機は左右同じ回転方向ですね。

 ちなみに、日本にある双発機(単発機も)の殆どが、プロペラは左回転(機体の前から見たとき)ですが、わが国が誇るYS-11は右回転ですね。
 

 


§332-2
 双発機の反トルク対策 セスナT-303逆回転エンジン採用の疑問  にがうり
 
 シシオさんの「双発機反トルク対策は?」質問については、たしかに双発機のこの問題は聞きませんね。DC-3、F-27、VC-828、YS-11旅客機クラスでは教育座学にも話しに出ませんでした。

 第2次大戦当時は尾輪式が普通ですから、加速して尾部を上げてなお直進するので前左右2輪だけでの滑走中が一番偏向することになります。

 特に大馬力単発はその傾向が強く出るかと思いますが、もし前輪式であればあまり問題にはならなかった?とも考えます。

 天山 彩雲は、特にこの傾向が顕著で通常の「当て舵」では収まらなくて垂直尾翼に角度までつける必要があったのでしょう。

 いずれにしてもプロペラ機のトルク偏向は基本的に存在しても、機体対策や操縦対応でカバーされるし、またどんなに対策しても自然気象の風向、風速の中での離着陸は「当て舵」など操縦対応は必ず必要になります。

 いくら完璧な機体対策をしても完全自動着陸装置(CAT.VC、パイロットは手足フリーで着陸.視界ゼロ着陸目的)を持たない限り離着陸はパイロットが手足を使わなければ出来ません。

 セスナT-303は両発エンジンが逆回転とは?驚きましたが、その後流行らないのはまずエンジンとプロペラに左右とも互換性がなく、2種類のエンジンとプロペラを持つことになりコスト増になるからだと思います。予備部品の中ではエンジンが一番高価です。日本航空機全集’95によると読売新聞社、本田航空、エグゼクティブ・エアサービス、総武産業など計10機登録されていますが、1995年現在生産停止中とのことです。

 セスナT-303 クルセイダの発動機とプロペラ
 発動機   左   コンチネンタル TSIO-520-AE    250HP
 右   コンチネンタル LTSIO-520-AE   250HP  
 プロペラ  左  マッコーレイ  3AF32C506/82NEB-8
 右  マッコーレイ  3AF32C507/L82NEB-8


 双発機の反トルク対策があるとすれば、従来の機体側対策、つまりエルロン、ラダーのタブ調整範囲で収まると思うし、またパイロットの離陸操作で通常範囲の当て舵で直進できるでしょう。逆回転エンジンというコスト高を承知で採用したセスナT-303にはなにか特別な理由があるのでしょうか。私も教えていただきたいです。
 

 


§332-3
 P-38も逆回転エンジン かつお
 
 セスナT-303
の逆回転が話題になっていますが、調べてみるとロッキードP-38ライトニングもそうでした。

 「双胴の悪魔」といわれ、戦後日本でも馴染みでしたが、今の目で見るとこれは前輪式で逆回転ですから、かなりの変り種ですね。左右互換性が無いのに戦時第一戦機にこの方式はさすが物量、工業力を誇るアメリカならではですが、何か特別の理由があるのでしょうか?

 


§332-4
 多発機の反トルク対策 シシオ
 以前、厚木でUS-1のパイロットに尋ねたことがあります。(US-1まで来るとT-5のように初等パイロットではなく熟練パイロットですよね) やはり、エンジンを出力状態にするとヨーイングを起こすので、操縦操作で対応しているそうです。

 US-1の機体への個々のエンジン取り付け部には、エンジンカバーの上部左側にだけ、整流板のようなフィンが付いていますね。

 E2CやC-130のパイロットにも聞いてみましたが、やはりラダー操作はジェット機よりも多いそうです。プロレラ機も奥が深いです。

 


§332-5
 P-38の逆回転エンジンについて 佐伯から
 
 ロッキードP-38ライトニングの開発と実用機の改良過程を読むと、原稿用紙数十枚分の感想が生まれるくらいに面白いです。その中から逆回転エンジンのことだけを取り出して請売りしてみます。

 P-38は迎撃用の戦闘機に1000馬力級のエンジンを二つ付けるということで、すでに設計段階から偏向が予測され、逆回転で決まっていました。エンジンは、アリソンの液冷V型12汽筒(V-1710)を左右別々に生産し、最終生産では排気タービン付で最大出力1基1600馬力です。

  

              (写真は1995/09/15 リノにて にがうりさん撮影)

 回転方向は、試作機では内回りでしたが、量産機では尾翼のバフェッティング対策とかで外回りに改められています。

 ご承知のようにプロペラ回転方向は国によって異なります。操縦席から見てイギリスは伝統的に左(反時計)回りですが、独米日は右(時計)回りです。

 イギリスがロッキードに発注したライトニング(P-38E)には同一回転方向のエンジンを要求したそうです。確認する写真が手元にありませんが、左回りエンジンを求めたのか興味あるところです。逆回転に固執しなかったのは、経済的事情によるものか、あるいは同一方向で偏向は解決するとみたかだと思われます。

 ロッキードは、P-38の開発を急ぐあまり時間のかかる研究や実験をかなり省略しました。もし、じっくりやっていれば「垂直尾翼のオフセット」「固定小タブ」「エンジンのオフセット」で安上がりに解決していたかもしれません。

 日本では、中島航空機が夜間戦闘機月光の設計で逆回転エンジンを検討しましたが、まずは日本での逆回転エンジン量産が困難であるし、左回転で試みてみたら問題なかったということです。

 そういうことで、軍用機における双発逆回転エンジンは、アメリカのロッキードP-38ライトニングが史上唯一の飛行機となってしまいました。

(参考文献 航空ファン 世界の傑作機シリーズ 第8集 P-38ライトニング 1968  航空ファン 世界の傑作機 bP00 特集P-38ライトニング 1979)

 


§332-6
 逆回転エンジンについて シシオ
 
 ライトニングの項目を興味深く拝見いたしました。
 プロペラ双発機のエンジンには、クリティカルエンジンというのがあると聞いています。

 セスナT303のように、互いに内回りのプロペラ回転だと、仮にどちらか一発が停止した時に、残った片発だけのプロペラトルクの反作用で機体胴体(軸重心)を持ち上げる方向に力が働きますね。

 左右どちらのエンジンが停止しても互いに内回りなので、いずれの場合でも結局重い胴体を持ち上げる作用ですね。(クリティカルエンジンが無い)

 しかし、左右ともに左回転(前から見たとき)だと、第二(右)エンジンが停止した時は胴体を持ち上げる作用が働きますが、第一(左)エンジンが停止すると、胴体を下げる作用が働き、更に生きているエンジンはただでさえ上昇しようとしますから益々胴体を押し下げるような気がします。(第一エンジンが停止すると機体がひっくり返りそうになり危険状態になるのでは)

 双発機は押し下げる作用エンジンだけでの操縦が難しいと思うのですが、如何でしょうか。

 素人考えですが、セスナT303があえてコストの高い左右逆回転を採用しているのは、クリティカルエンジンがある双発機への対応に慣れていない双発機初心(入門)者または、単発機よりは信頼性のある双発機の方がベター(安全)と思うアマチュアパイロットに向けての売り込みではないでしょうか。 

 

§332-7 クリティカル エンジンについて にがうりさんから

 レシプロ多発機のエンジン安全性は重要な問題です。

 特に双発機では、1発エンジン故障停止時に残る1発で安全飛行を継続するために、
片方のエンジンにより厳しい条件をつけます。これをシシオさんが言われるクリティカル エンジン critical engine 臨界発動機といいます。

 時計回りエンジン
(前からではなく後ろから飛行方向に向かって言うのが決まり)の機種では左エンジンがクリティカル エンジンになります。

 右エンジンが止まっても、左エンジンのプロペラ・トルクにより機体は左にロールが働き安定側に寄与します。

 逆に左エンジンが止まると、右エンジンのプロペラ・トルクにより機体はますます左にロールが働き危険な状態にります。それで左エンジンがクリティカル エンジンになっている訳です。

 これらは「耐空性審査要領」にも明文化され、設計段階から当然配慮されているし、パイロット訓練でも重要な科目になっています。左右エンジンどちらか停止により緊急操作の力点が変わります。

 たしかにセスナT303は新人パイロット訓練では楽かと思います。しかし民間機での左右逆転エンジン機はきわめて少数機種(T303だけ?)であって圧倒的多数の同一回転エンジン機にも乗らねばなりません。

 直接関係あるかは不明ですがこんな事故もありました。
 1987.5.15本田航空セスナT303,JA5277が訓練中に有明海に墜落、教官1、訓練生3の4名死亡、1発発動機不作動の最小操縦速度可能(Vmc)での緊急操作訓練中、右旋回スピンに入りそのまま機首を真下に下げ墜落です。

 セスナT303は左右内回り回転なのでクリティカル エンジンはなくより安全ですが、それでも事故は起きてしまいます。まったくの想像ですが教官は同一回転エンジン機に経験上慣れていて逆に回復操作に不具合があったのかもしれません。

 パイロットサイドのお話も聞きたいですね。

 それにしてもセスナはT303の製造を再開したのでしょうか? 

 

§332-8 多発機のトルク対策ついて 泉水 閑

 多発機のトルク対策ではWW2頃のフランス機は左右プロペラの逆回転をしています(ポテとかその辺の機体)。

 US-1は極低速飛行時にナセルをプロペラ後流がなめることで空気力が働き左に傾き左に曲がる傾向があるため、ナセルにフェンスをつけて空気力を殺しています。

 96陸攻やJu52では翼エンジンを外側に傾けています。たぶん片発停止時の対策でしょう。

 

以上04/07/25に再掲 以下新規投稿

 

§332-9 多発機のトルク対策ついて  US-1A改の場合 佐伯邦昭 (04/09/20)

 §332-4にシシオさんが、US-1の場合について書いていますが、同じ新明和のUS-1A改では四つのエンジン左側ににあった整流板が見当たりません。
 エンジンとプロペラを一新しているので反トルク問題は解消したのかと思いましたら、そうではなく発動機そのものを右に3°オフセットしているのです。4基ともです。

 



そう言われてみればやや右に向いているような・・・

富士T-5なら正面から明らかにわかります 右3°